東洋医学の「気滞」とは?|心と体を見る物差しと、その限界

東洋医学の『気滞』とは? 心と体を見る物差しのひとつとして整理するBE-ALL.ブログシリーズのアイキャッチ画像

「気滞」という言葉を見つけて、今の自分に当てはまる気がした。

言葉が見つかると、ばらばらだった感覚が、少し説明できたように思えることがあります。

ただ、ここで一つ区切りを入れたいのです。

その言葉を理解したことと、自分の不調の原因が分かったことは、別です。

この記事では、「気滞」「肝気鬱結」という言葉を、
どのような体系の中で読むかを整理します。
症状を数えて体質や病気を判定する記事ではありません。

気滞は、伝統的な「気」の動きについての言葉

東洋医学という呼び方には幅があります。
ここでは主に、中国伝統医学に由来する「気」や「肝」の概念を取り上げます。

気滞(きたい)は、その体系の中で、気の動きが滞っていると捉える言葉です。
WHOの2022年の用語集にも、
中国語の「气滞」が、気の動きが妨げられる状態を表す用語として収められています。
WHO用語集・項目424、冊子37ページ

ここでいう「気」は、伝統理論の中で生命活動を説明する概念です。
「巡りが悪い」という日本語にしたからといって、
血流が低下した、酸素が不足した、リンパが詰まったと、
そのまま置き換えることはできません。

気滞は、現代医学上の一つの病態と同じものではありません。

ここでいう病態は、病気の状態や、その仕組みのことです。

「どこかが物理的に詰まっているのだろう」と画像を思い浮かべる前に、
今読んでいるのが、どの体系の説明なのかを確かめます。

肝気鬱結の「肝」は、肝臓だけを指していない

肝気鬱結(かんきうっけつ)も、気の動きと、
伝統的な「肝」の働きを結びつけて捉える言葉です。「肝鬱」と表されることもあります。
日本語の用語と読みは、東京生薬協会の用語解説でも確認できます。

この「肝」は、現代医学の肝臓という臓器と同じ範囲ではありません。
伝統的な「肝」についての学術的な比較論文でも、臓器としての肝臓の範囲を超え、
さまざまな働きを含む概念として説明されています。Liuら、2017年

WHO用語集には、関連する「肝郁气滞证」が、
気分や身体の様子を組み合わせて捉える伝統的なパターンとして記されています。
WHO用語集・項目1240、冊子149ページ

したがって、この言葉だけから、
肝臓の病気、肝機能の検査値、うつ病などを推定することはできません。
漢字が共通していても、現代医学の病名への翻訳表にはならないのです。

読む言葉 この文章での扱い そこから決めないこと
気滞 伝統理論における気の動きの捉え方 血流・酸素・リンパの状態
肝気鬱結 伝統的な肝と気の働きに関わる捉え方 肝臓の病気や精神疾患の有無
巡り 何の巡りを指すか、文脈の確認が必要な言葉 その一語だけで身体の原因や施術効果

言葉が当てはまりそうでも、原因の確認は終わっていない

例えば、「気が滞っている」という説明を読み、
「自分も気持ちが晴れないから、これだ」と思ったとします。
これは読み方を考えるための仮の場面です。

その時点で分かったのは、説明の一部に自分との共通点を感じたことです。
今の状態を何が生じさせているか、医療上の確認が必要かは、まだ分かりません。

説明に自分を合わせ始めると、
「私は我慢しすぎる性格だから」
「本音を言わないから滞ったのだ」と、さらに理由を足したくなることもあります。

でも、用語を読んだだけで、
性格や生活上の振る舞いまで原因として決めることはできません。

「気滞という見方がある」と知ることと、
「私は気滞だからこうなった」と確定することの間には、
飛び越えてはいけない隔たりがあります。

分かりやすい言葉ほど、その言葉で説明し切れない部分も残しておきます。

人を見る範囲を広げても、答えを押し付けない

BE-ALL.では、東洋医学を
「人の心と身体を全体として見るために受け継がれてきた一つの物差し」として紹介します。

身体の一部分だけに注目せず、どのような暮らしの中にいる人なのかにも目を向ける。
その姿勢に、学ぶところがあると考えています。

一方で、整体師・リンパケアセラピストである私が、
その物差しを使ってご本人の病気や本音を判定することとは別です。

BE-ALL.では、ご本人の希望を先回りして決めず、
身体だけで人全体を判断しないことを大切にしています。
新しい言葉を知ったからといって、
「あなたはこういう人ですね」と答えを押し付ければ、その方針と矛盾します。

心身や暮らしを広く見ることと、伝統理論を医学的な事実として扱うことは、
分けておきたいのです。
現代医学と東洋医学は、概念や確かめ方の異なる体系です。
一方の言葉を、もう一方の証拠として使いません。

受け継がれてきたことと、効果の検証は別

長い歴史があることや、WHOの用語集に掲載されていることは、
それだけで、理論や個々の施術の効果が科学的に証明されたことを意味しません。

WHOも、長く用いられてきた伝統医療であっても、
有効性や安全性には厳密な科学的検証が必要だと説明しています。
WHO「Traditional medicine」

この記事の用語説明から、整体やリンパケアで気滞が解消する、病気を防げるといった結論には進みません。漢方薬や治療法を自分で選ぶための対応表にもしていません。

一般的な説明から自分の原因を決めないという点は、
身体の仕組みと個人の原因を分けて読む記事とも共通します。

名前を付ける前に、何を確かめたいか

気になる用語に出会ったら、次の三つを短くメモしてみます。

  1. これは、どの体系で使われている言葉か。
  2. 自分が実際に感じていることは、いつから、どんな場面で起きているか。
  3. その説明だけでは、まだ分からないことは何か。

例えば
「この用語を知った。でも、今の身体の変化を医療機関で相談すべきかは、この用語だけでは分からない」と書けます。

急な強い症状や、長引く・悪化する症状、生活への大きな支障がある場合は、気滞や年齢で説明を終えず、医療機関へ相談してください。
すでに受けている診療や服薬を、この記事を理由に中断しないでください。

最後に残したい問いは、

「この言葉は何を説明し、私について何がまだ確かめられていないだろう?」

です。

物差しを一つ知ることは、自分を見る言葉を増やすことです。
自分を一つの名前に閉じ込めることではありません。


竹内 愛|整体師・リンパケアセラピスト/BE-ALL.代表

愛知県豊橋市で、ご本人の言葉と暮らしを大切にしながら、身体との付き合い方を考える情報を発信しています。

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